大森悟 − 静水の際 上海 −
− 渊渊静水 万般之界 −
会期=2013年8月31日ー10月20日/休廊日=月曜日
会場=Joshibi Art Gallery
主催=女子美術大学 女子美術大学短期大学
協力=川上産業株式会社
※「プチプチ(R)」は川上産業の登録商標です。
※展示で使用した商品は川上産業株式会社のものではありません。
大森悟 − 静水の際 上海 −
「世界」という、私たちに馴染みはあるものの、その正確な意味がよく分からない言葉がある。辞書で調べてみると、「実在する一切のものを含んだ無限の空間や宇宙」等々と書かれている。その中に、世界は皆に「共通した概念ではなく、個々に見えている範囲に過ぎない」という記述があった。世界は、人間の英知を超えた存在でありながら、個々人の眼によって初めて知覚される、私たち人間と不可分に在るものといえようか。大森悟(1969- )の表現は、総じてこの世界という大きな存在を感じ、経験させるためのフィールド、言い換えれば日常と世界の狭間にある閾のような領域に向かって拓かれてきた。
今回、大森がJoshibi Art Galleryで発表するのは、暗闇の中で一筋の光の海を体験させるインスタレーションである。真っ暗な状態に遮光されたギャラリーの空間で、私たちが目にするのは、梱包作業に使われる透明のポリエチレン・シートの表面に、床に置かれた測量用の水平器からレーザーの光が投射され、そのライト・グリーンの屈折した光がギャラリーの四方の壁にキラキラと輝く水平線を描き出す様である。大森が上海の港を――それは日本につながる海上の路の出発点であると彼は言うが――イメージしたというこの光の静水に足を踏み入れ、暗い室内を歩きながら想起されるのが、光の点滅がもたらす原初の時間感覚である。しかし、来場者はここで世界を俯瞰することも、世界を創造することもない。ただその眼と身体を通して不可視の世界を感受し、世界に浸るだけである。大森の作品は、このように極めてシンプルな素材と方法を用いて、日常に潜在する生きた世界を継起的に体験させるという特長を持っている。私たちの目には、梱包材にしか見えない丸いプチプチしたクッション模様のあるポリエチレン・シートと水平器の光が、Joshibi Art Galleryを如何なる空間に変貌させるのかを期待したい。
北川智昭(豊田市美術館学芸員)
【関連リンク_スタッフ紹介】http://mixed-color.com/staff
【関連リンク_女子美アートギャラリー上海】http://joshibi-art-gallery.jp/